テスラFSD日本解禁に向けた動き【補足】——欧州承認と国交省L2++制度が同日に動いた「4月10日」の意味

EV考察

前回記事「テスラFSD、日本解禁はいつか」公開後、欧州と日本で重大な動きが同日に起きた。2026年4月10日、オランダのRDWがFSD(Supervised)の型式認定を正式発行したまさにその日、国交省は交通政策審議会に「自動運転社会の早期実現に向けた当面の方策」を提出し、新たな制度概念「L2++」の導入を明示した。偶然の一致かもしれないが、この二つを並べて読むことで、日本のFSD解禁をめぐる制度的地盤の現在地がより鮮明に見えてくる。


欧州承認の実像:何が決まり、何が決まっていないか

RDWの承認について、SNSで拡散している情報の一部には不正確なものがある。一次資料に基づいて整理する。

RDW公式サイト(rdw.nl)の声明は明快だ。「FSD Supervisedはオランダの型式認定を取得した。ただし車両は自律走行でも自動運転でもない。ドライバーは常に責任を持ち制御できる状態でなければならない」——これが当局の公式見解の核心であり、「完全自動運転が解禁された」という理解は誤りだ。

承認の法的根拠はUN R-171(ドライバー制御支援システム)への適合と、EU規則2018/858のArticle 39(既存枠組みに収まらない革新的技術への個別国家承認)の二本立て。重要なのは、この承認がオランダ国内の暫定的有効性にとどまり、EU全域への拡大には欧州委員会と27加盟国による投票プロセスが別途必要という点だ。テスラが「夏にEU全域承認」を見込んでいるのはあくまで自社の予測であり、委員会のコミットメントではない。

ハードウェア要件についても情報が錯綜している。RDW公式声明ではハードウェアの詳細は明記されていないが、テスラの過去の展開パターンやコミュニティ情報からHW4中心のテストが行われた可能性が高いと見られている。HW3搭載車については将来的なソフトウェアアップデート(v1.4-Lite等)での対応が期待されるが、おそらく初期配信の優先順位は低い。また欧州版FSDのソフトウェアはRDW自身が「米国版と一対一で比較できない」と明言しており、別途ローカライズされた版であることも確認が必要だ。


国交省資料が示した「L2++」という新しい地平

前回記事公開後に入手した国交省の一次資料(2026年4月10日付、交通政策審議会提出)に、日本の制度設計の現在地を示す重要な概念が登場した。

レベル2++(L2++)」だ。

資料はレベル2とレベル4の間に、従来の分類にはなかったこの概念を明示的に位置づけている。「ドライバー関与をほぼ必要としない高度な運転支援」と定義され、「複雑な交通環境下における高精度走行」「ハンズ・フリーでの自動車線変更」が実現できるとされている。

この定義はテスラFSD(Supervised)の実態と完全に重なる。これはFSDがレベル2でも3でもない第三のカテゴリとして制度化される方向性を、国交省が公式に認めたと読める。

さらに決定的なのが以下の記述だ。「将来のL4車に繋がる国産L2++車が2027年度中に市販化される予定」であり、その普及のために「優良L2++車の認定制度の創設」を進めるとしている。「多様なL2++車(商用車を含む)の開発・普及を促進」という表現から、この制度が国産メーカー専用ではなくテスラのような外資にも開かれている可能性が高い。

前回記事で紹介した技術安全WGの「E2E AI評価制度の創設」という方向性と、今回の「L2++認定制度の創設」は同じ文脈で動いており、2026年夏の結論取りまとめに向けた骨格がより具体的な形で見えてきた


路車協調という「日本型アプローチ」の可能性

同資料には、自動運転の安全性を高める日本独自のアプローチとして路車協調システム(ITS)の実証結果も示されている。

新東名での自動運転トラック合流支援実験では、路側センサの情報提供によって「周囲交通に影響を与えない円滑な合流」の割合が大幅に改善した。一般道5都市での実証でも、路車協調システムの活用により信号交差点右折での手動介入発生割合が10.6ポイント減少した。

注目すべきは、この実証にBYD社のJ6が使用されていることだ。テスラだけでなく中国メーカーの車両も国交省の実証に参加しており、外資を含めたオープンな制度設計が進んでいることがわかる。

日本がカメラオンリーの「テスラビジョン型」に加え、路側センサとの協調という「インフラ側からの安全補完」という軸を持っていることは、単なる規制の遅れではなく、安全性の証明方法に関する別のアプローチとも解釈できる。


日本でのFSD解禁を早めるために——制度と市民の関係

前回記事では日本解禁の予想タイムラインを示した。補足として、どのような動きがその実現を早めるかを整理する。

「早くしろ」という圧力は逆効果だ。RDWへの「ありがとう」電話が殺到した際、RDW自身が「審査に何の影響もない、やめてほしい」と公式に表明した事例は示唆的だ。規制当局への集団的な感情的圧力は、当局を防衛的にさせる。

では何が有効か。三つある。

一つ目はパブリックコメントへの参加だ。保安基準の改正時には必ずパブコメが行われる。現状の提出件数は業界団体が大半を占め、一般ユーザーの声は少ない。「FSDを使いたい」「安全性検証のこういう方法が有効だと思う」という具体的な意見を文書で提出することは、制度上きちんと考慮対象になる。

二つ目はライドアロング体験の詳細な記録・発信だ。テスラが2026年3月から実施しているライドアロングへの参加者が「どんな場面でどう動いたか」「どこに課題を感じたか」を具体的に発信することが、社会的受容性の形成に直結する。国交省のRoAD to the L4プロジェクトが「社会受容性向上」を明示的な目標に掲げているのはそのためだ。

三つ目は正確な情報の社会的共有だ。「FSD=完全自動運転」という誤解と「自動運転は危険」という感情的拒否反応の両極が世論を歪めている。「レベル2であること」「欧州では18ヶ月の審査を経て承認されたこと」「日本では独自の交通環境への対応が別途必要であること」を正確に伝える発信が、行政が動きやすい環境をつくる。


改訂タイムライン:4月10日以降の見立て

欧州承認の確定と国交省資料の内容を踏まえ、前回記事のタイムラインを更新する。

2026年4〜6月(進行中):欧州でのFSD段階的ロールアウトが開始。テスラが欧州でのセーフティケース実績を蓄積。国交省技術安全WGがL2++認定制度の骨格をとりまとめ中。

2026年6月(分水嶺):WP.29がADS国際規制草案を採択(見込み)。国交省WGが夏の結論取りまとめへ。テスラジャパンが欧州審査のエビデンスを転用した国内申請の準備を本格化。

2026年秋〜冬(審査フェーズ):L2++認定制度の告示・施行。テスラが型式指定変更申請を提出。国交省・NALTECによる保安基準適合審査。日本固有の交通法規(信号なし横断歩道・固有標識等)への適合確認が焦点。

2026年末〜2027年第1四半期(解禁):楽観シナリオが2026年末、現実的シナリオが2027年Q1。HW4搭載の対象車にOTA一括配信。HW3搭載車はv14-Lite相当の別アーキテクチャで後日対応見込み。


まとめ

4月10日は、欧州でのFSD承認と日本でのL2++制度方針提示が重なった日として記録に値する。制度の枠組みはかつてないほど具体的になっており、テスラジャパンが「2026年内の実装」を目標に掲げる根拠は着実に積み上がっている。

残る変数は二つ。WP.29の6月採択が順調に進むかどうか、そしてテスラが日本固有の技術的課題——信号のない横断歩道、固有標識の認識——を審査水準まで仕上げられるかどうかだ。規制の地盤は整いつつある。あとは技術と審査プロセスが追いつくかの問題に収束してきた。


本稿は2026年4月11日時点の情報に基づきます。国土交通省資料(2026年4月10日付)および RDW公式声明(2026年4月10日付)を一次資料として参照しています。

長谷川

2021年よりテスラ Model 3 でEVオーナーとしてのキャリアをスタート。現在はテスラ Model 3・Model Y、Hyundai KONA、日産サクラの計4車種を保有し、日常使いから長距離走行まで実践的に運用しています。
TOCJ(Tesla Owners Club Japan)全国ミーティング、New Year EV MEET 2026、ジャパンEVラリー白馬などのEVオーナーズイベントや、Japan Mobility Showの見学など、現場での情報収集にも積極的に取り組んでいます。多数の試乗経験と4台のオーナー経験をもとに、日本におけるEVの実態を一次情報として発信。購入検討から日常運用まで、実体験に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。
現在の所有車:Tesla Model 3 / Tesla Model Y / Hyundai KONA Electric / 日産サクラ
テスラ車購入時に使用できる紹介コード:
https://www.tesla.com/ja_jp/referral/hasegawa44580

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