テスラの高度運転支援システム「FSD(Full Self-Driving Supervised)」をめぐる状況は、2026年4月以降に大きく進んだ。オランダの型式認定機関RDWは4月10日にFSD(Supervised)を認定し、テスラは現在、欧州・アジア太平洋地域を含む複数市場で提供している。一方、2026年7月23日現在、日本は提供地域に含まれていない。
テスラジャパンは2026年内の実装を目標としているが、これは正式な開始日の発表ではない。本稿では、欧州で実際に起きた承認、国連の国際規則、国交省の「L2++」制度、HW3向けv14 Liteの展開を分けて整理し、日本導入の現実的な時期を考える。
FSD(Supervised)は自動運転ではない
FSD(Supervised)は、車載カメラの映像をもとに、ルート案内、操舵、加減速、車線変更、右左折、交差点通過、駐車などを支援するシステムだ。End-to-End型のニューラルネットワークを活用しているが、現在提供されている機能は運転者の能動的な監視を必要とするレベル2相当の運転支援であり、車両を自律走行車にするものではない。
テスラ自身も、運転者が常に注意を払い、直ちに介入できる状態で使用する必要があると説明している。名称に「Full Self-Driving」と含まれていても、責任主体は運転者である。詳しくはTesla公式FSDページを参照してほしい。
日本で未提供なのは、単に技術が完成していないからでも、単一の規則だけが妨げているからでもない。日本固有の交通環境への適応に加え、車両の型式・運転支援機能・ソフトウェア更新に関する適合確認や、規制当局の承認が必要になる。
欧州では4月10日に承認、ただしEU一括承認ではない
オランダRDWは2026年4月10日、FSD(Supervised)の型式認定を発行した。これは「判断予定」ではなく、すでに起きた事実である。ただし当初の効力はオランダ国内に限られ、EU全域で自動的に利用可能になったわけではない。RDWは、EU全域への拡大には欧州委員会への申請と加盟国による投票など、追加手続きが必要だと説明している。
RDWは18か月以上にわたり、公道と試験場で3,000時間超・1,000回超の独自試験を実施し、欧州で走行した180万kmのデータも評価した。6月17日の追加説明では、認定後にオランダ国内の約4万台が約2,400万km走行し、その時点で関連する事故は確認されていないとしている。承認後も報告頻度を通常の年次から月次に引き上げ、継続監視している。
出典:RDWによる4月10日の認定説明、RDWによる6月17日の追加説明
テスラ公式は現在、米国、カナダ、中国、メキシコ、プエルトリコ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、オランダ、リトアニア、エストニア、デンマーク、ベルギーを提供地域として案内している。表記上の国数と列挙地域数には数え方の違いがあるため、本稿では個別地域名を基準にする。日本はまだ含まれていない。
ADS国際規則とFSDの承認は分けて考える
UNECEのWP.29は2026年6月24日、完全な動的運転タスクをシステムが担うADS(Automated Driving System)の新たな国際規則を採択した。安全管理体制、シナリオベース評価、セーフティケース、市販後監視などを組み合わせ、少なくとも有能で注意深い人間ドライバーに相当する安全水準を目指す枠組みである。
ただし、これはドライバーレス運転まで扱うADSの規則であり、運転者が常時監視するFSD(Supervised)の日本解禁を直接決める規則ではない。レベル2の高度運転支援にはUN Regulation No.171(DCAS)とその改正がより直接的に関係する。したがって「ADS規則が採択されたので日本版FSDが自動的に解禁される」という理解は正確ではない。
4月時点の記事では「6月に採択予定、採択後すぐ発効」と予想していたが、採択は完了し、UNECEは新しい枠組みが採択からおおむね1か月後に発効すると説明している。詳細はUNECEのGRVA活動記録とUNECEの採択発表で確認できる。
日本では「L2++優良認定制度」を2026年中に創設へ
国土交通省の技術安全ワーキンググループは、AIを活用し一般道を含めて高度な走行支援を行うレベル2車両を、便宜上「L2++車両」と整理している。これはSAEが定める正式な自動運転レベルではなく、運転者が周辺を監視し、縦方向・横方向の操作をシステムが支援する車両を示す政策上の呼称である。
最新の報告書案では、L2++車両の性能を評価する「優良認定制度」を2026年中を目途に創設するとしている。安全性の高い車両をユーザーが選びやすくし、適正利用と社会受容性を高めることが目的だ。一方、この制度の創設だけでFSDが使えるようになるわけではなく、テスラ車と日本向けソフトウェアについて必要な認証・適合確認が別途必要になる。
出典:国土交通省「技術安全ワーキンググループ報告書のとりまとめについて(案)」
日本での開発状況と「2026年内」目標
テスラは2025年8月に日本での公道テスト開始を発表し、2026年3月には国内でライドアロング(同乗体験)を実施した。テスラジャパンの橋本社長らは、報道やインタビューを通じて2026年内の実装を目指す考えを示している。日本の利用者にとって重要な経営目標であり、導入時期を考える有力な材料になる。
ただし、「2026年内」はテスラ側の目標であって、国交省が承認日を約束したものではない。テスラ公式も国別の具体的な提供時期には回答できないと案内しており、規制承認や地域適応などに左右される。日本固有の標識、信号、無信号横断歩道、狭い道路、左側通行の交通流への対応も重要になる。
HW3にはv14 Liteという現実的な経路が登場
HW3搭載車については、従来のように「初回提供の対象外」と断定できる状況ではなくなった。テスラは2026年6月末、米国でHW3(AI3)向けの「FSD(Supervised)v14 Lite」を早期アクセス車両へ配信し、7月には一般ユーザーへの段階的な展開も始めた。韓国でも7月10日からHW3の早期アクセス車両への展開が始まっている。
v14 Liteは、AI4向けv14の運転判断をHW3のカメラ構成と処理能力に合わせて圧縮・最適化したバージョンだ。市街地での速度プロファイル、目的地到着オプション、駐車状態からの開始、駐車・後退など、新しいv14系の機能をHW3にも展開する。これはHW3を切り捨てるのではなく、ハードウェア別に異なるソフトウェアを提供する方針が具体化したものと評価できる。
この動きを踏まえると、日本でFSD(Supervised)が認可された際、HW3車にはv14 Lite系、AI4車には通常のv14系が提供される可能性がある。ただし、日本向けの対象車両、提供時期、AI4版との機能差は未発表であり、現時点では予想にとどまる。v14 Liteも運転者の常時監視を必要とするレベル2運転支援で、無人運転を可能にするものではない。
また、HW3からAI4以降への交換方針、費用、対象条件について、日本向けの確定情報はない。テスラが公式に無償交換を案内しているのは、購入型FSDを保有するHW2.0/2.5車からHW3へのアップグレードである。根拠のない交換費用を推定することは避ける。参考:Tesla AIコンピューター交換案内、米国でのv14 Lite初期配信報道、韓国での展開報道
私自身も、所有する2021年製Model 3(HW3)にFSDを付けている当事者であり、この点は非常に気になっている。v14 Liteという道筋が現れたことは前進だが、日本でどの機能まで提供されるか、追加負担が生じるかは、テスラからの正式発表を待って確認したい。
日本解禁の予想タイムライン
2026年7月現在:欧州などで実運用、日本は試験・制度整備段階
欧州の一部市場や韓国、オーストラリア、ニュージーランドでは提供が進み、左側通行・右ハンドル市場での運用実績も蓄積されている。日本ではテストと制度整備が続くが、提供開始や対象車両はまだ正式発表されていない。
2026年後半:L2++制度の具体化と日本向け適合確認
国交省は2026年中を目途にL2++優良認定制度を創設する方針だ。これと並行し、日本向けFSDの地域適応、車両・ソフトウェアの適合確認、必要な申請がどこまで進むかが焦点になる。ただし、テスラが申請を提出した時期や審査期間は公表されていないため、具体的な月を断定できない。
導入時期:楽観は2026年末、中心は2027年前半
楽観シナリオは2026年末、中心シナリオは2027年前半、慎重シナリオは2027年後半以降と予想する。橋本社長が示す2026年内目標、海外展開の加速、国内制度整備は楽観材料である。一方、日本向け承認や対象車両の公式発表がまだないことを考えると、2027年前半を中心に見るのが妥当だ。
まとめ
2026年4月以降、欧州での承認、WP.29の国際規則採択、国交省のL2++優良認定制度、HW3向けv14 Liteの配信と、FSDを取り巻く条件は大きく前進した。ただし、欧州承認やADS国際規則がそのまま日本承認になるわけではない。
日本導入では、テスラの日本向け開発、規制当局の承認、車両ハードウェア別の提供仕様がそろう必要がある。2026年内の導入は依然として可能性のある目標だが確定事項ではなく、現時点の中心予想は2027年前半とする。HW3についても、v14 Liteにより提供可能性は高まった一方、日本向け仕様が正式発表されるまでは対象・機能・費用を断定しない姿勢が重要だ。
本稿は2026年7月23日時点の公開情報に基づきます。規制当局の判断、テスラの開発・配信状況により見通しは変動します。


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