出典:Tesla Q1 2026 決算説明会 / 決算Q&A(2026/4/22) / Tesla Japan社長発言(2026/3、日経新聞)ほか複数一次情報
2026年4月22日のテスラQ1決算説明会は、FSD(Full Self-Driving)をめぐる複数の重大発表が集中した。欧州初承認・中国展開・日本テスト継続という「グローバル展開の加速」と、HW3車両の「Unsupervised FSD非対応」という永年の約束の事実上の撤回——この二つの大きな流れを、一次情報に基づいて整理する。
01|2026年、FSDは「北米専用」から「グローバル製品」へ転換する
テスラのFSDはこれまで実質的に北米市場のみで展開されてきた。これが2026年に大きく変わろうとしている。Q1決算でCFOのバイバウ・タネジャは「2026年はFSDのグローバル展開元年」と位置づけ、具体的な地域ごとの進捗を開示した。
| 地域 | 現状(2026年5月時点) | 次のマイルストーン | ステータス |
|---|---|---|---|
| 北米(米国・カナダ) | FSD v14.3系を展開中。RoboTaxiをオースティン・ダラス・ヒューストンで運用 | Unsupervised FSD 顧客向け展開(Q4 2026目標) | ✅ 稼働中 |
| 欧州(オランダ) | FSD v14系の承認取得(欧州初)。HW4搭載車のみ対象 | EU全域承認(Q2 2026、5月にEU審査予定) | ✅ 稼働開始 |
| 欧州(オランダ以外) | 未承認。ブリュッセルでのEU一括審査待ち | Q2 2026中にEU全域承認を目標 | 🔶 審査中 |
| 中国 | 部分承認を取得。「智能輔助駕駛」名称でv13.2.6の無料トライアル実施(4月16日終了) | Q3 2026に広範な商用承認を目標 | 🔶 交渉中 |
| 日本 | 2025年8月より公道テスト開始。2026年3月にModel Yを追加してテスト継続 | 2026年内の一般承認を目標(時期は規制当局次第) | ⏳ 認可待ち |
技術面で重要なのは、地域展開の手法だ。テスラのオートパイロット責任者・アショク・エルスワミーは決算Q&Aで「欧州に展開したのは米国と全く同じアーキテクチャ・学習手順であり、欧州データを追加しただけだ」と明言した。つまりFSDは「地域ごとに別システムを開発する」のではなく、グローバル共通プラットフォームにローカルデータを加えるアプローチを採っている。日本展開においても同じ論理が適用される。
「Unsupervised FSDについても同じことが言えるはずだ。米国で解決したことは、現地データが集まれば世界中で機能する」
Ashok Elluswamy(テスラ VP of AI)— Q1 2026 決算説明会 Q&A
02|FSDバージョンロードマップ:v14.3、v14 Lite、v15の三段構え
現在のFSDはバージョン体系が複数に分岐しており、対象ハードウェアによって提供内容が異なる。今後12ヶ月のロードマップを整理する。
現在:FSD v14.3系(HW4専用) アーキテクチャを大幅刷新した現行主力バージョン。北米ではv14.3.2まで展開済みだが、広域展開はまだ1%未満(バグ修正中)。欧州版はv14.2.2.5として別バージョンで展開。
2026年6月末:FSD v14 Lite(HW3向け) HW4版v14と同等の機能を実現する軽量版。HW3車両に初の「v14体験」を提供。ただし「Lite」の名が示す通り、Unsupervised FSDへの道は開かれない。
2026年Q4:Unsupervised FSD 顧客向け段階展開(HW4のみ) 地理的に段階的なロールアウト。Muskは「特定の地域が安全と確認された時点で順次解放する」と説明。
2026年末〜2027年初:FSD v15 ソフトウェアアーキテクチャの完全刷新。Muskは「v15が入れば人間を大幅に上回る安全水準になる」と表現。現在のv14でもすでに人間より安全との認識を示している。
⚠ 注目点: 「v14.3がUnsupervised FSDの最後のピースか」という問いにMuskは「14.3はラストピースだ。ただし、既知の大型アーキテクチャ改善があるため、それを実装せずに大規模展開するのは適切ではない」と回答した。技術的には可能でも、v15投入前の大規模展開は行わないという判断だ。
03|HW3問題の決着:7年越しの約束が事実上撤回された
今回の決算で最も重大な発表の一つがHW3問題の「公式決着」だ。テスラは2019年以来「全車両にはFSD完全自律走行に必要なハードウェアが搭載済みである」と公式サイトで謳い、最大150万円超のFSDを販売してきた。
2019年 HW3搭載開始・「全車FSD対応」を宣言 テスラ公式サイトに「すべての車両は完全自律走行に必要なハードウェアを搭載している」と明記。FSDを最大$15,000(約150万円相当)で販売開始。
2025年1月 Musk「HW3が非対応なら無償アップグレードする」 Q4 2024決算でHW3の限界を初めて示唆しつつ、「FSD購入者には無償でHW3→HW4アップグレードを行う。痛みを伴い困難だが、やり遂げる」と明言。
2026年4月 HW3の非対応を正式確認。「割引付き下取りを優先提示(レトロフィットも将来的に検討)」への転換 「残念ながらHW3はUnsupervised FSDを達成する能力がない。HW4に比べてメモリ帯域幅が8分の1しかなく、これがAIに必要な要素だ」とMuskが公式に断言。対応策として「無償アップグレード」ではなく「割引付き下取り」を先に提示。
HW3とHW4の性能差
| 項目 | HW3(AI3)2019年〜 | HW4(AI4)2023年〜 |
|---|---|---|
| Unsupervised FSD | 非対応(確定) | 対応(Q4 2026展開予定) |
| FSD v14 Lite | 2026年6月末提供予定 | v14.3系展開中 |
| メモリ帯域 | HW4比で1/8 | 基準 |
| カメラ解像度 | HW4より低解像度 | 高解像度 |
| 今後のアップグレード | コンピュータ+カメラ+配線ハーネス全交換が必要 | AI4.1(AI4+)へのRAM倍増計画(2027年目安) |
⚠ 重要:FSD購入者へのアップグレード対応
2025年1月のMuskの「無償アップグレード」約束との整合性について、今回の決算では正面から説明されなかった。現時点で判明していることを整理すると、①FSD一括購入者を「優先対象」とし、HW4搭載車への割引下取りまたはハードウェアアップグレード施工を提供する方向、②FSDサブスク契約者は別扱いで有償(推定$3,000〜$5,000)になる可能性が高い、③具体的な費用・条件は未公表——という状況だ。HW2→HW3転換時には無償交換を実施した前例があるだけに、今後の正式発表が極めて重要となる。
アップグレードにはコンピュータとカメラの物理交換が必要なため、既存サービスセンターでは対応しきれない。テスラは大都市圏に「マイクロファクトリー」を設置して専用施工ラインを構築する計画を示しているが、実現時期・規模は未定だ。
なお、「無償アップグレード」の約束をSupervisedとUnsupervisedに分けて解釈する視点も重要だ。HW3でもSupervisedのv14 Liteは6月末提供される——これを「FSD提供の履行」とみなし、Unsupervisedは「上位機能」として別枠に置く構造的な論理が読み取れる。欧州では集団訴訟が進行中であり、この解釈の妥当性が今後問われることになる。
04|日本導入の現在地:テスト継続中、承認時期は「規制次第」
日本市場におけるFSD展開は、現時点では「テスト継続中・承認待ち」の段階だ。テスラジャパン社長の橋本理智氏は「2026年中の導入に向けてできる限りのことをしている」と公言しているが、最終的な判断は国土交通省の承認プロセスにかかっている。
既知の事実(2026年5月時点)
- 2025年8月 日本での公道テスト開始。テスラ社員がテストドライバーとして走行。
- 2026年3月 Model Yをテスト車両に追加。テスラAI公式アカウントが日本の公道でのFSD走行デモ動画を公開。異なる車高・センサー位置でのデータ収集が目的。
- 2026年Q1 車両UI上に「フルセルフドライビング ケイパビリティ」の日本語メニューが一部車両に出現。リリース前準備の進行を示唆。
- 承認後 既存の約4万台へのOTA展開を予定(新車購入者のみならず既存オーナーも対象)。
国土交通省(MLIT)は2025年、テスラ車両がOTAでFSD関連の自動運転機能をアクティベートできるよう規制を整備した。これは「車両ごとに物理改修・再認証が必要」という従来の壁を取り除く重要な前提条件の整備だった。ただし、FSD(Supervised )そのものの一般公開承認はまだ得られていない。
日本固有の難しさ: 日本の道路環境はFSDにとって世界屈指の難易度を持つ。狭路・独特の標識体系・全横断歩道での完全停止義務など、北米データでは学習できない要素が多い。テスラが明示しているように「現地データがあればグローバルのアーキテクチャをそのまま適用できる」——日本でのテストはまさにそのデータ収集が目的であり、承認取得の技術的前提条件を着実に積み上げている段階といえる。
日本展開において別途考慮すべき点が、HW3問題との交差だ。現在日本で稼働中の約4万台のテスラのうち、多くがHW3搭載車と推定される。欧州ではHW4搭載車のみがFSDの対象となっており、日本でも同様の制限が適用される可能性が高い。すなわち、日本のHW3オーナーが「FSD日本承認」の恩恵を直接受けるためには、ハードウェアアップグレードが別途必要になると考えておくべきだ。
※ 欧州ではHW4搭載車のみがFSD(Supervised)の対象となっており、HW3搭載車はv14 Liteの承認を待つ状況。
05|中国展開:Q3目標も「規制当局次第」の不透明さが続く
中国は世界第二位のテスラ市場であり、FSDの商用展開は収益上の最重要課題の一つだ。しかし承認プロセスは難航している。
Muskは2025年11月の株主総会で「2026年2〜3月に中国での完全承認を得る」と予告していた。しかし2026年1月に中国国営メディアがこれを否定し、2月にはテスラ中国副社長Grace Taoが「具体的な日程は未定」と認めた。Q1 2026決算ではCFOが「Q3 2026での広範な承認取得を目標に規制当局と協議中」と述べるにとどまり、目標が3ヶ月以上後ずれしている。
中国FSDの現状: 中国では「Full Self-Driving」という名称が使用禁止(MIIT通達)のため、「智能輔助駕駛(インテリジェント・アシステッド・ドライビング)」として展開。2025年2月に部分的に展開開始、4月16日まで v13.2.6の無料トライアルを実施(HW4搭載車のみ対象)。4月20日、テスラコミュニティの著名アカウント「wholemars」が「FSD China 👀」と投稿し話題に。無料トライアル終了直後のシグナルとして次フェーズへの移行が近い可能性を示唆している(未確認)。
総括|今後12ヶ月の核心論点
グローバル展開の加速は本物だ。 欧州でオランダ承認→EU全域(Q2目標)、中国でQ3目標、日本で2026年内目標と、複数地域が同時進行している。アーキテクチャは共通で、現地データが鍵。
HW3問題の本質は「消費者保護」の問題だ。 最大$15,000のFSDを購入したHW3オーナーへの無償アップグレード約束が、「割引下取り」へ事実上すり替えられた。費用・条件の正式発表が最重要の未解決事項。欧州では集団訴訟が進行中。
Supervised / Unsupervisedの概念分離が約束回避の論拠になっている。 HW3でもSupervisedのv14 Liteは6月末提供——これを「FSD提供の履行」とみなし、Unsupervisedは「上位機能」として別枠に置く構造的な論理が読み取れる。
日本のHW3オーナーはFSD日本承認の恩恵を直接受けられない可能性がある。 欧州前例を踏まえれば、日本でもHW4搭載車のみが対象になると考えるべきだ。ハードウェアアップグレードの費用・条件の動向が日本市場での実質的な影響を左右する。
RoboTaxiはゼロインシデントを維持しながら拡大中。 オースティン・ダラス・ヒューストンで稼働、年内に「十数州」への展開を目標。安全指標よりも「利便性の課題」(スタック・無限ループ等)の解消が現在の主なボトルネック。
本記事はTesla Q1 2026決算説明会(2026年4月23日)、および複数の英語メディア報道(Not a Tesla App、Teslarati、Electrek、autoevolution、EVwire、basenor等)を一次情報として作成しています。HW3アップグレードの費用・条件など、現時点で未公表の事項については今後のテスラ公式発表を確認してください。

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