住宅や事業所などの建物屋根に太陽光パネルを設置し、電気自動車(EV)の車載電池を活用すれば、日本の電力需要の大部分を地域内で賄えるのではないか。Nguyen Thi Quynh Trang氏と東北大学大学院環境科学研究科の小端拓郎准教授を責任著者とする8人の研究チームは、全国1,741市町村を対象に、この可能性をシミュレーションした。研究成果は2025年5月、国際学術誌『Applied Energy』に掲載されている。
この研究は建物屋根を対象としており、駐車場のソーラーカーポートを含むとは確認できない。本記事では、ソーラーカーポートを別の追加可能性として検討する。
2026年8月2日のEV SUMMER CAMP 2026でも、小端准教授とニチコンの小林翔太氏が、屋根上太陽光、EV、V2H・V2Gを組み合わせる将来像を議論した。講演で紹介された数字は大きい。しかし、年間発電量と時間ごとの電力自給率、技術的ポテンシャルと現在の実績を区別しなければ、内容を正しく理解できない。
本記事では、講演で示された構想や発言を、査読論文、東北大学の研究成果発表、国土交通省、環境省、資源エネルギー庁などの公開資料と照合する。そのうえで、日本の現在地と今後の政策・研究課題を考える。
- まず結論:85%は一定条件のシミュレーション結果で、現在の実績ではない
- EV SUMMER CAMP 2026で語られたSolarEV City
- 「年間1.2倍」と「自給率85%」は別の数字
- 2025年全国市町村研究の前提と、現実との違い
- 研究はどこまで積み重なっているのか
- 地方都市で見落とせない「昼間の職場駐車」
- 職場の太陽光充電は地方都市の有力なインフラになる
- EVは職場から家庭へ電気を運ぶ蓄電池になる
- ソーラーカーポートは1,155GWとは別に検証が必要
- 定置用蓄電池はEVと競合せず、役割を補完する
- V2H・V2GでEVバッテリーは劣化するのか
- 日本の現在地:技術ポテンシャルと普及実績には大きな差がある
- 日本が今から進めるべき7つの提言
- 今後の研究で確認すべきこと
- 日本のEVユーザーにとっての意味
- 主要な主張のファクトチェック
- まとめ:地方都市の鍵は「住宅の屋根」だけでなく「職場の駐車場」
- 主な公的資料・研究論文
まず結論:85%は一定条件のシミュレーション結果で、現在の実績ではない
Nguyen Thi Quynh Trang氏と小端拓郎准教授を責任著者とする研究チームが、2025年に『Applied Energy』へ発表した全国1,741市町村のシミュレーションでは、次の結果が示された。以下、本記事ではこの論文を「2025年全国市町村研究」と表記する。
- 住宅などの建物屋根の有効面積の約70%に、変換効率20%の太陽光パネルを設置
- 全国の導入ポテンシャルは1,155GW、年間発電量は1,017TWh
- 太陽光だけでは時間ごとの電力自給率は平均45±4%
- 各世帯に電池容量40kWhのEVが1台あり、そのうち20kWhを充放電に利用できると仮定すると平均85±12%
- 家庭の電力利用と自動車走行を合わせたCO₂排出量は87±11%削減
- 電力・燃料コストは33±11%削減
- 地方部では最大98%、東京23区では約50%
これらは『Applied Energy』掲載論文で報告されたシミュレーション結果である。東北大学の研究成果発表でも、研究の概要と責任著者、主要な数値を確認できる。
「日本の電力を85%賄える」という表現は、論文が置いた条件のもとで、太陽光とEVを組み合わせた場合の平均電力自給率が85%になるという意味だ。現在の日本が85%を自給しているわけではなく、すべての市町村が85%になるわけでもない。送電網や他の電源が不要になるという結論でもない。
EV SUMMER CAMP 2026で語られたSolarEV City
講演で小端准教授は、屋根上太陽光を社会の主な発電場所とし、EVを「走る蓄電池」として組み合わせる構想を説明した。家庭で余った電力を近隣、地域、都市中心部へ融通し、災害時にも活用するビジョンである。
講演では、建物屋根の約70%に太陽光パネルを設置すると、年間発電量が2022年度の国内総発電量の約1.2倍に達し、需要と供給の時間差を考慮しても電力需要の8割程度を賄えるとの見通しが紹介された。2025年全国市町村研究が示した値は、年間発電量1,017TWh、平均電力自給率85±12%である。
講演で特に重要だったのは、技術だけでなく社会実装の課題にも踏み込んだ点だ。自動車、住宅、電力、自治体、利用者が別々に動く「業界の分断」、既存エネルギー産業から新しい事業への移行、EV・V2Hの認知不足、利用者が接続に協力するための仕組みが課題として挙げられた。
「年間1.2倍」と「自給率85%」は別の数字
年間発電量1,017TWhは、2022年度の国内総発電量834.8TWhの約1.2倍に相当する。しかし、1年間の発電量が需要量を上回っても、電気が必要な時間に必要な量を供給できるとは限らない。
太陽光は昼間に発電し、夜間には発電しない。晴天時に余剰が生じる一方、冬季や悪天候時には不足しやすい。2025年全国市町村研究の「電力自給率」は、1時間単位の需要と供給にEVの充放電を組み込み、地域内の太陽光とEVで賄える需要の割合を求めた指標である。
| 指標 | 意味 | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| 年間発電量1,017TWh | 1年間に屋根上PVが作り得る総電力量 | 必要な時間に全量を使えるとは限らない |
| 太陽光のみ45±4% | EVの充放電を使わず、地域内の太陽光で賄える需要の割合 | 年間発電量が大きくても夜間は供給できない |
| 太陽光+EV 85±12% | EVの充放電を加えた平均電力自給率 | 全国一律85%でも、100%自給でもない |
| 一部の農村部で最大98% | 屋根面積と車両数が電力需要に対して多い地域の結果 | 都市部や日照の少ない北日本など、地域差が大きい |
残る需要を脱炭素電力で安定して賄うには、地域間連系線、水力、風力、地熱、揚水、定置用蓄電池、需要制御などを組み合わせる必要がある。日本の100%再生可能電力を検討した別研究でも、広域送電、揚水・水力、バイオマス、水素など複数の調整手段が必要とされている。Energy Conversion and Management掲載研究
2025年全国市町村研究の前提と、現実との違い
2025年全国市町村研究は、全国の市町村を同じ基準で比較するため、実際の暮らしや設備を単純化した共通条件を置いている。
| 項目 | 主な前提 | 現実に導入する際の課題 |
|---|---|---|
| 太陽光 | 屋根面積の70%、変換効率20% | 方位、影、耐震、積雪、所有関係、施工費 |
| EV | 各世帯1台、電池40kWh | EVを持たない世帯、複数台、容量差 |
| 蓄電利用 | 40kWhのうち20kWhを充放電に利用 | 出発時の最低SOC、保証、劣化、実際の接続率 |
| 走行 | 1日17km、年間6,368km | 通勤距離や曜日、地域差、商用利用 |
| 車両不在 | 7~19時の間に、ランダムに選んだ計3時間はV2Hを利用できない | 自宅を離れて職場に長時間駐車する通勤行動を十分に表現していない |
| 制度 | 技術・経済性を共通条件で比較 | 系統制約、託送料、需給市場、税・報酬制度 |
したがって、85%は将来を一点で予測した数字ではない。一定の条件を置いたシナリオの結果であり、EVの普及率や接続時間、屋根の利用率などが変われば結果も変わる。
研究はどこまで積み重なっているのか
SolarEV Cityの考え方は、対象地域や分析方法を変えながら、複数の論文で検討されてきた。
2021年:9都市の可能性を提示
2021年に『Environmental Research Letters』へ掲載された論文は、日本の9都市を対象に、屋根上太陽光とEVの組み合わせによって電力需要の53~95%を賄い、CO₂排出量を54~95%削減できる可能性を示した。掲載論文
2022年:住宅地区と商業地区の違い
福島県新地町の住宅地区と京都市の商業地区を比較した研究では、住宅地区は屋根面積と利用可能な車両が多く、太陽光+EVの効果が高いとされた。地域内の電力融通を加えると効果が高まり、論文が置いた2025年想定では、住宅地区の電力需要の89%を賄い、CO₂排出量を88%、コストを23%削減する結果となった。『Applied Energy』掲載論文
2025年:京都を1kmメッシュで分析
京都の1kmメッシュ分析では、郊外は屋根と車両を活用しやすい一方、都心は屋根・駐車スペースが制約になることが示された。郊外の余剰を中心部へ融通する重要性も明らかになった。Sustainable Cities and Society掲載論文
2026年:段階的な普及過程を分析
大阪府吹田市を対象とした研究は、2018年から2050年までPV、EV、V2Hが段階的に普及するシナリオを比較した。加速シナリオでは2050年に最大約60%のCO₂削減、25%超のコスト削減が見込まれ、PV+EV+V2Hの利点がPV単独を上回る時期は2035年前後とされた。Urban Science掲載論文
一連の研究は、設備を最大限に導入した場合の可能性だけでなく、都市構造、地域間の電力融通、普及速度へと分析対象を広げてきた。ただし、実際の通勤先や駐車場所を全国規模で再現する研究は、なお不足している。
地方都市で見落とせない「昼間の職場駐車」
地方都市では、自動車で通勤し、日中の大部分を勤務先の駐車場で過ごす人が少なくない。国土交通省の全国都市交通特性調査でも、平日・休日とも地方都市圏は三大都市圏より自動車の交通手段分担率が高く、地方都市圏の平日の自動車分担率は長期的に上昇している。国土交通省「令和3年度全国都市交通特性調査」
2025年全国市町村研究はEVが自宅で利用できない時間を考慮している。ただし、朝に自宅を出たEVが勤務時間中に職場の駐車場へ置かれる通勤行動や、自宅と職場の充電設備を区別してモデル化してはいない。通勤車が職場にある間は、自宅のV2Hへ接続できない。
そのため、職場に充電設備がない場合、家庭の太陽光で昼間にEVを充電できる時間を実態より長く見積もる可能性がある。一方、勤務先の屋根やソーラーカーポートに太陽光パネルと充電設備があれば、家庭を中心としたモデルでは捉え切れない効果が生まれる可能性もある。
資源エネルギー庁も、日中にEVが駐車する職場へ充電器が普及すれば、太陽光発電の多い時間帯へ充電を移せると指摘している。エネルギー白書2017
職場の太陽光充電は地方都市の有力なインフラになる
勤務時間中に長く駐車するEVは、必ずしも大出力の急速充電を必要としない。退勤までに必要な電力量を確保できる範囲で出力を調整し、太陽光の発電量に合わせて複数台の充電を制御できる。
オランダを対象とした職場での太陽光充電研究では、充電出力を動的に制御し、電力系統への依存を抑えながら太陽光由来の電力をEVへ直接充電するシステムが検討された。TU Delftの研究
別の1年間にわたる実証研究では、職場の太陽光充電によって通勤に必要な電力の大部分を賄える可能性が示された。同時に、「駐車したら接続し、出発までつないでおく」という利用行動の重要性も報告されている。『Applied Energy』掲載論文
ただし、これらは海外研究である。日本では積雪、台風、耐震、受電設備、駐車区画、雇用形態、通勤距離、企業の電力契約を反映した実証が必要だ。
EVは職場から家庭へ電気を運ぶ蓄電池になる
職場で太陽光から充電し、帰宅後に家庭のV2Hで放電できれば、EVは電気を時間だけでなく場所も越えて運ぶ。
この運用には三つの効果が考えられる。
- 職場の昼間の太陽光余剰をEVへ直接充電する
- 帰宅後の夕方・夜間に家庭へ給電する
- 自宅屋根を持たない集合住宅・賃貸住宅の住民も再エネを利用する
特に三つ目は、SolarEV Cityを住宅所有者だけの仕組みにしないために重要だ。職場充電があれば、自宅に太陽光や専用充電器を設置できない人も参加しやすくなる。
勤務先と自宅が異なる市町村にあれば、EVは市町村をまたいで電気を運ぶことになる。この移動は市町村別の電力自給率にも影響するが、2025年全国市町村研究では明示的に計算されていない。通勤流動をエネルギーフローとして扱う研究が必要である。
ソーラーカーポートは1,155GWとは別に検証が必要
2025年全国市町村研究と東北大学の研究成果発表は、対象を「住宅などの建物屋根」としている。駐車場のソーラーカーポートが1,155GWの推計に含まれるとは確認できない。したがって、ソーラーカーポートは同じ推計の内数とせず、別途検証すべき追加可能性として扱うのが適切である。
環境省は、駐車スペースを維持しながら上部空間で発電できることを、ソーラーカーポートの利点として挙げている。2026年度には、ソーラーカーポートなどの駐車場太陽光と充電設備を対象とする導入支援事業も実施している。環境省の導入資料と2026年度事業
ただし、通常の屋根置き太陽光より架台、基礎、排水、照明、車両衝突対策、積雪・風荷重への対応が必要となり、施工費は高くなりやすい。すべての駐車場へ一律に設置すべきではなく、発電量、駐車時間、充電需要、構造条件を合わせて評価する必要がある。
定置用蓄電池はEVと競合せず、役割を補完する
EVは大容量だが、外出中や整備中には家にない。定置用蓄電池は容量が小さくても常時接続され、停電時の重要負荷や短時間の変動を担当できる。
運用の基本は、太陽光で発電した電気をまず建物内で使い、余った分をEVと定置用蓄電池へ配分することだ。制御にあたっては、EVの出発予定、出発時に必要な最低SOC、電気料金、停電への備えを考慮する。講演では太陽光の直接利用を優先する考えが示されたが、EVと定置用蓄電池の利用順序まで固定する趣旨ではなかった。
小端研究室のウェブサイトでは、仙台市内の一戸建て住宅における2025年の運用例が紹介されている。13.5kWの太陽光発電、7kWhの定置用蓄電池、40kWhの日産リーフ、V2Hを組み合わせ、年間発電量16.2MWh、住宅とEVを合わせた需要8.75MWh、買電量0.72MWh、電力自立率91.8%だったという。小端研究室
これは一戸の運用事例であり、全国の住宅へ一般化できる査読済み研究ではない。ただし、太陽光、定置用蓄電池、EVを組み合わせた運用例としては参考になる。
V2H・V2GでEVバッテリーは劣化するのか
講演では、適切な制御によりV2H・V2Gの劣化影響を小さくでき、無制御充電より良い状態を保てる可能性が紹介された。ただし、「V2Hを使っても劣化しない」と断定するのは不正確だ。
2017年の実験研究では、V2Gによる追加サイクルがセル性能を悪化させ、条件によって車載用途の寿命を短くする可能性が示された。Journal of Power Sources掲載研究
一方、2024年に発表された20カ月間の実験研究では、適切に設計されたV2X制御は電池劣化を大幅には増やさず、充電を制御しない場合より容量低下を抑える可能性が報告された。試験終了時のSOHには、充電シナリオ間で3.09ポイントの差が生じた。『eTransportation』掲載論文
二つの研究の結果が異なるのは、電池の材料、温度、平均SOC、放電深度、充放電出力、充放電回数、V2Gで提供するサービスなどの条件が異なるためと考えられる。普及には、メーカー保証との整合、車両側で確認できるSOH、出発時の最低SOC、劣化分を考慮した報酬設計が必要だ。
日本の現在地:技術ポテンシャルと普及実績には大きな差がある
日本の太陽光発電設備容量は、2023年度末時点で77.04GWだった。資源エネルギー庁「エネルギー動向」 2025年全国市町村研究が示した1,155GWは、この実績の約15倍に相当する。
2024年度の太陽光発電量は98.1TWhで、総発電量の9.9%。再生可能エネルギー全体では約23%だった。資源エネルギー庁「令和6年度エネルギー需給実績」
2024年度末のEV保有台数は35万8,262台で、軽EVを含む。次世代自動車振興センター 一方、経済産業省の資料によると、V2Hシステムの累計出荷台数は2024年末時点で3万1,135台だった。これは出荷累計であり、現在稼働している設置台数とは一致しない。DRready勉強会資料
| 指標 | 現在確認できる実績 | 2025年全国市町村研究の想定・推計 |
|---|---|---|
| 太陽光設備容量 | 77.04GW(2023年度末) | 導入ポテンシャル1,155GW |
| 太陽光発電量 | 98.1TWh(2024年度) | 年間1,017TWh |
| 太陽光比率・電力自給率 | 太陽光は総発電量の9.9%(2024年度) | 太陽光+EVによる平均電力自給率85% |
| EV保有 | 35万8,262台(2024年度末) | 原則各世帯1台 |
| V2H | 累計出荷3万1,135台(2024年末) | 双方向接続が広く普及 |
太陽光が総発電量に占める比率と、シミュレーション上の電力自給率は異なる指標であり、単純には比較できない。ここでは、日本の実績と研究が想定する規模の隔たりを示すために併記した。
第7次エネルギー基本計画に関連して示された2040年度の需給見通しでは、発電電力量を1.1~1.2PWh程度、再生可能エネルギーを40~50%程度、太陽光を23~29%程度としている。資源エネルギー庁の2040年度需給見通し
2025年全国市町村研究の年間発電量1,017TWhは、比較に用いた2022年度の国内総発電量834.8TWhを上回る。ただし、データセンターの増加、産業部門の電化、半導体工場の新増設などで将来の電力需要が増えれば、1,017TWhが将来需要も上回るとは限らない。
日本が今から進めるべき7つの提言
1.屋根を発電場所の第一候補にする
森林や農地との対立を避けるため、新築・改修、公共施設、工場、物流施設を中心に、構造安全性と地域条件を確認した屋根上太陽光を優先する。設置できない屋根まで一律に義務化するのではなく、理由を可視化する台帳が必要だ。
2.地方の職場駐車場を昼間充電拠点にする
事業所の屋根・カーポート太陽光と、多数台を制御できる3~6kW級の普通充電を組み合わせる。急速充電器の台数競争ではなく、長時間駐車に合わせて安価に接続口を増やす政策が重要だ。
3.まずV1G、必要な場所からV2H・V2Gへ進む
双方向機能がなくても、発電量に合わせて充電時間を動かすV1Gは余剰電力の吸収に使える。V2H・V2Gは、対応車、保証、系統要件を確認しながら段階的に増やす。
4.EV所有者の電池と接続時間に対価を払う
電力量だけでなく、接続可能な時間、確保した容量、周波数調整、非常時協力に報酬を設定する。劣化、変換損失、通信費を所有者へ一方的に負担させない設計が必要だ。
5.地方の余剰を都市へ運ぶ系統と利益還元を整える
地方は高い自給率を期待できるが、都市への送電には連系線・配電網の増強が必要だ。発電地域へ固定資産税、地域料金、基金などで利益を戻し、都市だけが利益を得る構造を避ける。
6.賃貸・集合住宅・EV非所有者も参加できる仕組みにする
職場充電、共同蓄電池、カーシェアEV、第三者所有のPPA、地域VPPを組み合わせ、戸建てとEVを買える世帯だけの政策にしない。
7.防災性能は通常時の節約と分けて認証する
V2Hがあるだけでは停電時に使えるとは限らない。自立運転、重要負荷への配線、最低SOC、EV不在時のバックアップ、停電訓練を含むレジリエンス認証が必要だ。EVの自宅充電設置ガイドでも、設備と契約容量を事前に確認してほしい。
今後の研究で確認すべきこと
2025年全国市町村研究のシナリオを、現実の導入計画へ落とし込むには、次の検証が必要である。
- 国勢調査やパーソントリップ調査を用いた居住地・勤務地間の通勤流動
- 走行中、自宅駐車、職場駐車、商業施設駐車の時間別モデル
- 充電器へ実際につながる確率と、利用者が許容する最低SOC
- 住宅屋根、事業所屋根、ソーラーカーポートの個別ポテンシャル
- 職場のV1G充電と帰宅後V2Hを組み合わせた実証
- EVが自治体間で運ぶ電力量と、配電網・連系線への影響
- 積雪、台風、猛暑、停電時の実測
- 電池化学別のV2H・V2G劣化と保証・補償
- 賃貸、低所得、非EV世帯を含む費用と便益の分配
- 導入率が徐々に上がる現実的な2030年、2040年、2050年シナリオ
環境省の2025年度実証では、市場価格の安い時間帯にEVとエコキュートを自動制御し、昼間の再生可能エネルギーの余剰を吸収する「上げDR」の効果が確認された。環境省の実証結果 今後は、家庭だけでなく職場も対象に含めた実証が必要になる。
日本のEVユーザーにとっての意味
SolarEV Cityは、EVを購入すれば自動的に電気代が下がるという仕組みではない。太陽光発電の有無、充電場所、車両と充放電設備の対応状況、電気料金プラン、車を利用する時間によって効果は変わる。
すでにEVを所有している人は、まず次を確認したい。
- 昼間にEVがどこへ何時間駐車しているか
- 自宅または職場で普通充電できるか
- 車両と設備がV2Hに対応するか
- 出発時に必要なSOCと、家庭で使える余裕をどれだけ確保できるか
- 太陽光の発電量と家庭・職場の需要が何時に重なるか
これからEVを選ぶ人にとっても、航続距離だけでなく「どこで、何時間つなげられるか」が車両価値になる。EVの将来像についてはEVの未来も参照してほしい。
主要な主張のファクトチェック
| 主張 | 判定 | 正確な読み方 |
|---|---|---|
| 屋根70%で国内総発電量の約1.2倍を発電 | 条件付きで研究が支持 | 変換効率20%などを仮定した年間1,017TWhの導入ポテンシャル |
| 日本の電力需要の85%を賄える | 条件付きで研究が支持 | 太陽光+EVによる平均電力自給率85±12% |
| 地方ならほぼ100% | 一部の農村部のシナリオで支持 | 最大98%。都市部や日照の少ない北日本などでは低い |
| ソーラーカーポートも1,155GWに含まれる | 確認できない | 建物屋根とは分けて追加検証する必要がある |
| 通勤車が自宅にない時間を無視している | 一部考慮 | 7~19時のうち計3時間を利用不可とするが、実際の職場駐車はモデル化していない |
| 職場充電で必ず85%を超える | 未確認 | 改善余地はあるが日本の全国実証が必要 |
| V2H・V2Gで電池は劣化しない | 不正確 | 制御、温度、SOC、電池化学で変わる |
| 太陽電池は将来30%になる | 研究開発目標 | NEDOが一定条件下の2030年度目標として掲げる |
| 太陽光+EVだけで送電網不要 | 不正確 | 季節変動と都市需要には系統・他電源が必要 |
NEDOはタンデム型次世代太陽電池について、2030年度までに一定条件下で住宅用発電コスト12円/kWh以下、変換効率30%以上を研究開発目標としている。NEDO 実用化が確定した数字ではないが、研究が置いた20%を上回れば、必要屋根面積を減らせる可能性がある。
まとめ:地方都市の鍵は「住宅の屋根」だけでなく「職場の駐車場」
屋根上太陽光とEVの組み合わせが電力自給率を高める可能性は、日本の複数地域を対象にした一連の査読研究で示されてきた。2025年全国市町村研究の85%という試算は、年間発電量だけでなく、1時間単位の需給とEVの充放電を考慮した点に意味がある。
一方、現実の日本は、太陽光、EV、V2Hの普及規模がシナリオから大きく離れている。季節変動、都市部の屋根不足、系統制約、電池保証、費用負担、公平性も残る。
そして地方都市でSolarEV Cityを現実に近づける鍵は、住宅だけではない。平日の昼間にEVが集まる職場駐車場である。住宅屋根、事業所屋根、ソーラーカーポート、スマート充電、帰宅後のV2Hを一体化して初めて、EVは地域の太陽光を時間と場所を越えて運ぶインフラになる。
85%という数字だけを目標として掲げるのではなく、どの地域で、誰の屋根と車両を使い、誰が費用を負担し、誰が利益を得るのかを検証する必要がある。こうした実証研究と制度設計を同時に進めることが、日本にとっての次の段階である。
主な公的資料・研究論文
- 東北大学研究成果発表・建物屋根70%への太陽光パネル設置で電力自給率85%と試算
- 『Applied Energy』・全国1,741市町村を対象にした太陽光+EV研究
- SolarEV City concept・Environmental Research Letters
- 住宅・商業地区比較・Applied Energy
- 京都1kmメッシュ研究・Sustainable Cities and Society
- 吹田市の段階普及研究・Urban Science
- 国土交通省・令和3年度全国都市交通特性調査
- 資源エネルギー庁・エネルギー白書2017
- TU Delft・職場太陽光充電研究
- 環境省・駐車場等への太陽光発電設備導入促進事業
- NEDO・次世代型太陽電池の開発
- V2G劣化研究・Journal of Power Sources
- V2X劣化実験・eTransportation
編集部注:本記事は公開資料と査読論文に基づき、公式に確認された事実、研究上の推計、講演者の見解、EV Noteの提言を区別して記載した。85%は将来条件のシミュレーション値であり、現在の供給実績や実現を保証する数値ではない。


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