同じ「EV」なのに、なぜこんなに差がつくのか
2026年2月の世界EV販売台数は約110万台だった。前年同月比11%減という数字だけを見ると「EVは見込みがはずれた」と読みたくなるが、実態はもっと複雑である。地域別に分解すると、同じ「2月」、同じ「EV」ではあり得ないほどの極端な差になっている。
| 地域 | 2026年2月変化率 | 主因 |
|---|---|---|
| 欧州 | +21% | 補助金維持・強化 |
| 中国 | ▲26% | 市場飽和・補助金終了 |
| 北米 | ▲36% | 税制優遇廃止の直撃 |
| 日本 | +100%超(初期値低) | 補助金130万円引き上げ |
最大の要因は一つだ。**詳しく問うまでもなく「補助金政策」**である。
米国——「市場に委ねる」とこうなった
米国のEV市場は、バイデン政権時代に最大7500ドル(経済約110万円)の税額控除をテコに成長した。2024年の米国BEV販売は約130万台、全車に占めるシェアは8.1%に伸びていた。
ところがトランプ政権は2025年中にその税額控除を廃止した。影響は即座に表れる。バイデン政権末期に補助金前の駆け込み需要が高まった2024年Q4のすぐ後、販売は急落し、税額控除廃止後の2025年11月にはEVシェアは6.3%まで低下した。自動車情報サイトのエドマンズは2026年通年のEVシェアが6.0%まで落ち込むと試算している。
さらに米国は規制も後退した。カリフォルニア州の「Advanced Clean Cars II」規制(2035年までに全新車をEVにする巨大な規制)が廃止され、メーカーにEVの販売を促進したいとする動機はほぼ消えた。
結果として米国で起きているのは「新車EV販売が急落し、中古EV市場が急増」という実に皮肉な展開だ。2.5万ドル(経済約370万円)以下の中古EV販売は13.5%増という。EVに乗りたい気持ちはある、でも新車は高すぎる——という層が中古市場に流れ込んでいる構図だ。
参考記事:Used electric vehicles under $25,000 surge as new EV sales crash (Los Angels Times)
欧州——補助金を持続すると市場は確実に伸びる
欧州2月のEV販売が前年比+21%と市場全体の伸び(+15.8%)を大幅に上回ったのは、各国が補助金を維持・強化し続けているからだ。魅力的なEVが継続的に投入されていることも背景にある。
「補助金を廃止したら販売が落ちる」のはドイツが証明済みだ。ドイツは2023年末に補助金(1台4500ユーロ)を突然終了したことで、2023年の70万台から翌年57万台へと販売減少を経験した。その蹉跌を踏まえ、多くの国が補助金維持の方針を堅持している。
その中で注目すべきは中国メーカーの動きだ。テスラが欧州で前年比▲17%と急落する一方、BYDは2ヶ月連続で欧州販売台数でテスラを上回っている。マスク氏の政治活動への反感がテスラ需要の足を引っ張る中、BYD等中国勢が伸びている構図だ。
日本——補助金で欧州型を選んだが、「誰に与えるか」で選別主義が伴う
日本は今回、欧州型の補助金強化策を選んだ。EVの上限を最大90万円から130万円に引き上げ、PHEVも平行して引き上げた。十分なEVスペックを備えた新型bZ4X、新型リーフなどの登場も伴い、2月の国内BEVシェア倍増という数字に直結した。補助金の効果が明らかな数字として現れた。
ただし日本の補助金強化には、欧州にはない側面がある。「誰にどれだけあげるか」という選別主義的側面である。
米テスラを擁する「米国側の要求」に応じる形でEVの補助上限が引き上がったが、補助の恩恵はあからさまに国産車とテスラに集中し、BYD等中国車の補助は4月から一律15万円に大幅削減された。国産電池の調達・重要鉱物安定確保に貢献するメーカーを優遇する新たな評価基準も導入された。
結果として国産EVとBYDの補助額格差は最大115万円に拡大した。BYDオートジャパンの東福寺社長が「勝負にならない」と公言するほどの格差だ。
Tesla Model 3・Model Y・KONA Electric・日産サクラの4台を所有する立場から
この3市場での動向を見ると、日本がEVシフトを進めようとしている方向性は明確だ。欧州型の補助金強化を選び、米国のような廃止はしなかった。これは2月の国内BEVシェア倍増という数字に直結した。(最大130万円はやり過ぎだとは思うが)
補助金政策は永遠ではない。米国の実験はもう一つの教訓も導ける。**エンジン車との大きなコスト差を埋めていた補助金が消え失せると、中古EV市場の再評価が進む。**日本でも今後、補助金削減や廃止の段階で中古EV市場が再評価される局面が来るかもしれない。
また、EVはスペック陳腐化のスピードがエンジン車よりはるかに早い。所有している4台のEVのリセールバリューがあっという間に下がるのを目の当たりしている身からすると、補助金を活用するかどうかはどれくらいその車を所有するつもりなのかよく考えた方がいい。
それでも最大130万円の補助金はとてつもなく魅力的であるのは事実だ。令和8年4月からCEV補助金の申請受付が始まった。予算1,100億円の補助金は先着順で、予算切れになれば終了する。購入を検討中の方は早めの行動を強く薦める。
まとめ:3地域が教えること
欧州・米国・日本の3地域の実験が示す答えは明確だ。
補助金を導入・維持すると市場は伸びる。廃止すると落ちる。 これは直接的な因果関係として実証されている。EVがどれだけ優れていると主張しても、補助金がなければ購入検討の俎上にのぼらない人は少なくない。
その上、日本市場における補助金には、あからさまな選別がある。同じ「EV」が、「日本メーカー・テスラか」「BYDか」によって得られる補助金が100万円以上も差がある以上、補助金はもはや「普及支援」よりも「産業政策」の性格を帯びている。
米国の実験はもう一つの教訓も導く。補助金依存の市場がいかに脆いかを示している。今回の日本の補助金は金額が多すぎるとはいえ、継続自体は正しい方向だと思う。だが同時に、補助金がなくても魅力的なEVを作れるメーカーを育てることの方が、長期的な市場成熟の観点からは健全だ。
果たしてこの様な市場を母体とする日本メーカーに、海外市場でも人気を得られる魅力的なEVを開発することができるのか、新興国でもEVシフトが進み始めている現状を考えると、残された時間は多くはないだろう。


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