ホンダがEV3車種を開発中止──複数EV所有する私が感じた「複雑な現実」

ホンダがEV3車種を開発中止──複数EV所有する私が感じた「複雑な現実」 EVニュース

ニュースの概要

2026年3月12日、ホンダが衝撃的な発表をした。

新世代EVとして鳴り物入りで予告されていた「Honda 0(ゼロ)」シリーズの「サルーン」と「SUV」、そして高級ブランド・アキュラの「RSX」——北米で生産を予定していた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種について、開発・発売を中止するというものだ。Honda 0シリーズ全体の終了を意味する発表ではない。

財務への影響も大きい。3月時点では2026年3月期の親会社帰属損失を最大6,900億円と予想していたが、5月14日に発表された確定値は4,239億円の赤字(営業損失は4,143億円)だった。来期以降を含む電動化戦略見直し関連の費用・損失は、最大2兆5,000億円という概算が示されている。HondaはHVの競争力と販売を強化する一方、EVから撤退するのではなく、需要と収益性を見ながら投資を選択・集中する方針だ。

ホンダが挙げた理由は大きく3つだ。

  • 米国の関税政策変更によるICE/HV事業へのダメージ
  • 北米でのEV普及の鈍化
  • 中国市場における新興EVメーカーとの競争激化

正直に言う。最初に聞いたとき、気持ちは複雑だった。

Tesla Model 3、Model Y、KONA Electric、日産サクラ。私はこれら4台のEVを現在も同時に所有している。EVの良さも、不便さも、ユーザーとして身をもって体験してきた立場からすると、このニュースには素直に一言で反応できない引っかかりがある。

まず正直に言っておくと、私自身は「次にホンダEVを買おう」という意欲がもともとそれほど高くなかった。だからこの発表が自分の購買計画を直接左右するわけではない。ただ、影響があるとすれば「知人・友人にホンダEVを勧めるときの推奨度を一段落とす」ことになる。

これは小さいようで、決して軽くない変化だ。口コミや人への推薦がEV普及の重要な経路であることを考えると、オーナー・関心者のあいだでの「ホンダEVは推奨しにくい」という空気は、じわじわと普及の足を引っ張る。


EVへの「過大評価」が修正される——それ自体は悪くない

ポジティブに受け取れる部分もある。それは「EVへの過剰な期待値が修正される」という点だ。

ここ数年、EV市場は「すぐに全部EVになる」というムードに乗っかったメーカーの過剰投資と、それに続く急ブレーキの繰り返しだった。ホンダだけではない。GMも、フォードも、目標を掲げては修正してきた。

冷静に考えれば、当然だ。インフラ整備、バッテリーコスト、ユーザーの生活環境——これらが揃わないと、いくら良いEVを作っても市場は動かない。日本のEV新車販売比率はいまだ3%台。IEAによれば、2025年の世界新車販売に占める電気自動車(BEVとPHEV)の比率は約25%だった。集計対象は同一ではないものの、日本でBEV普及が遅れていることは明らかだ。

ホンダが「現実を直視した」という意味では、この判断に一定の誠実さを感じる。


ただし、見逃せない2つのネガティブな文脈がある

① 新型インサイト——中国市場の余剰対策という疑念

今回の発表と前後して、Hondaは新型「INSIGHT(インサイト)」を2026年4月17日に日本で発売した。価格は550万円、WLTCモードの一充電走行距離は535kmで、4代目はクロスオーバーSUVのBEVとなった。

だが、このモデルには個人的に拭えない疑念もある。新型インサイトは中国の研究開発体制を活用したモデルで、中国では新興EVメーカーとの競争が激化し、Hondaの中国事業も厳しい状況にある。このため、中国側の開発・生産資産を日本向けにも活用する意図があるのではないかと私は見ている。ただし、余剰在庫や余った生産能力の受け皿だという説明をHondaが公式に示した事実はなく、ここは筆者の分析・問題提起である。

グローバルの開発・生産資産を活用すること自体は合理的だ。一方、日本の利用環境やユーザーにどこまで最適化され、長期的な販売・サービス体制が維持されるのかは、購入判断で確認したい。Honda 0シリーズを新世代EVとして打ち出していた姿勢との温度差を、私は感じている。

② 長期的には、競争でさらに遅れるリスク

HVへの回帰は短期的な収益回復策としては理にかなっている。トヨタのHV戦略が証明しているように、日本メーカーのHV技術は世界最高水準だ。

だが、中国と欧州はEV開発を止めない。

BYDは2025年にテスラを抜いて世界EV販売首位に立ち、シャオミなどの新興勢力も急追している。日本政府は2035年までに乗用車の新車販売を電動車100%にする目標を掲げたままだ。なお、ここでいう電動車にはEVだけでなく、HV、PHEV、FCVも含まれる。

2026年5月14日のビジネスアップデートで、Hondaは四輪事業再構築の柱として、コスト体質の改善、開発効率の向上、重点地域への経営資源集中を示した。三部社長は「EVから撤退するのかというと、決してそうではない」と説明している。HVで収益を確保しながらEV技術も磨く戦略が本当に機能するのか、それともEV開発の遅れにつながるのかは、今後の具体的な商品と投資で判断する必要がある。


一方で、国内には明るい対照例もある——N-ONE e:の好調

ここで、対照的なポジティブな動きにも触れておきたい。

ホンダが国内向けに投入した軽EV「N-ONE e:」は、比較的好調な滑り出しを見せている。日産サクラが切り開いた軽EVという市場で、ホンダが独自の存在感を示しつつある。

日本でEVが普及するルートは、大型BEVではなく「軽EV」にある——そのテーゼを支持するデータとして、N-ONE e:の動向は今後も注目したい。短距離移動・自宅充電中心という日本の生活スタイルに、軽フォーマットのEVがいかにフィットしているかを改めて示した形だ。

北米向けHonda 0シリーズ2車種などの中止というネガティブと、N-ONE e:をはじめ国内EVラインアップの継続というポジティブが同時に存在する——これが今のHonda EVの「二面性」だ。


EVオーナーとしての結論

今回のホンダの決断を一言で言えば、「短期的には現実的な正解、長期的には賭け」だ。

自分自身はもともとホンダEVの購入を強く考えていたわけではない。だが、EVに関心を持つ知人から相談されたとき、以前は選択肢として挙げられたホンダBEVを、今後は一段慎重に紹介することになるだろう。戦略が大きく揺れているメーカーのEVを、積極的に後押しするのは難しい。

「Honda 0 α(アルファ)」は2025年の発表時点で2027年から日本やインドを中心に販売予定と説明されていた。ただし、2026年3月以降の戦略見直しを踏まえると、投入時期を含む最新計画は今後の正式発表を確認する必要がある。5月に示された再構築策が「HVで食いつなぐ」にとどまるのか、「次世代EVへの本質的な投資」を伴うものなのか——そこにHondaのEV本気度の答えが出る。

4台のEVを所有する一ユーザーとして、私はホンダの「本気のEV」をまだ諦めていない。


主な参考資料

※本記事は2026年7月時点の公表情報に基づき更新しています。市場評価や将来見通しに関する記述には筆者の見解を含みます。


長谷川 孝 / ev-note.jp

Tesla Model 3・Model Y・KONA Electric・日産サクラ オーナー

長谷川

2021年よりテスラ Model 3 でEVオーナーとしてのキャリアをスタート。現在はテスラ Model 3・Model Y、Hyundai KONA、日産サクラの計4車種を保有し、日常使いから長距離走行まで実践的に運用しています。
TOCJ(Tesla Owners Club Japan)全国ミーティング、New Year EV MEET 2026、ジャパンEVラリー白馬などのEVオーナーズイベントや、Japan Mobility Showの見学など、現場での情報収集にも積極的に取り組んでいます。多数の試乗経験と4台のオーナー経験をもとに、日本におけるEVの実態を一次情報として発信。購入検討から日常運用まで、実体験に基づいた信頼性の高い情報提供を心がけています。
現在の所有車:Tesla Model 3 / Tesla Model Y / Hyundai KONA Electric / 日産サクラ
テスラ車購入時に使用できる紹介コード:
https://www.tesla.com/ja_jp/referral/hasegawa44580
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